STUDY
2023.1.31
「ルーヴル美術館展 愛を描く」が待ちきれない!【第4回】『かんぬき』徹底解説
2023年3月1日からスタートする国立新美術館の「ルーヴル美術館展 愛を描く」では、ルーヴル美術館所蔵の「愛」にまつわる作品が多数来日します。
どんな作品が日本に来るのか今から知っておきたい! という人に向けて、ローマの大学院で美術史を専攻している筆者が特に注目の作品を4点ピックアップ。最終回となる今回は、ジャン=オノレ・フラゴナール『かんぬき』についてご紹介します。
ジャン=オノレ・フラゴナールはどんな画家?
Jean-Honoré Fragonard, Public domain, via Wikimedia Commons
ジャン=オノレ・フラゴナールはフランスの画家、版画家です。ロココ後期に活躍し、フラゴナールの作品には享楽主義的な特徴があります。
デッサンを含む550点以上の作品を残しており、フランスのアンシャン・レジーム末期では最も多作な芸術家の1人です。フラゴナールの作品には親密な雰囲気をベールに包んで表現している風俗画が多く、愛と官能の場面を描いて人気を集めました。
ローマに留学中フラゴナールは、イタリアを旅行して多くの風景、噴水、神殿などのスケッチを残しています。また、ルーベンスやレンブラントなどのフランドルの巨匠の作品に触れることで緩く力強い筆致を学び、これらが後の彼の作品に活かされることになります。
初期のフラゴナールは、宗教画や古典画以外の作品制作を躊躇していました。しかしフランス宮廷の裕福なパトロンたちに要望に応えるため、「愛」をテーマにした世俗画を多く手掛けるようになっていきます。フラゴナール特有の素直な筆致と優しい色遣いは、俗的なテーマであっても芸術作品としての高尚さを保つ力がありました。
『かんぬき』のストーリー
ジャン=オノレ・フラゴナール 《かんぬき》 1777-1778年頃 油彩/カンヴァス 74 x 94 cm パリ、ルーヴル美術館 Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Michel Urtado / distributed by AMF-DNPartcom
『かんぬき』はそんなフラゴナールが残した作品の中でも最も有名なものの1つです。慌ただしくベッドルームに入ってきた男女の様子を描いており、タイトル通り男性は部屋に人が入って来られないようかんぬきを掛けています。
一般的には恋人同士の情熱的な愛のシーンと解釈できますが、別の解釈では男性側の一方的な求愛であり、合意ではない関係の始まりとする説もあります。かんぬきは外から人を入れないためだけでなく、女性が簡単に外に出られないようにかけられたのかもしれません。
作品の楽しみ方
フラゴナールの『かんぬき』では、部屋は散かりバタバタとした男女のせわしない様子が伝わります。ベッドは整っておらず、椅子はひっくり返っています。
そんな中、整然とテーブルの上におかれたリンゴが目に付きます。キアロスクーロ(明暗表現)効果により、2人の人物から離れたところで存在感を示すリンゴは、「罪の象徴」でしょう。
絵具で何度も塗り重ねるフラゴナールの技法は、明瞭な正確さが特徴です。フラゴナールは絵具を塗る前に赤やグレーの下地を敷いており、これによりカンヴァスに絵具がすぐに染み込むのを防ぎました。神経質でありながら躍動感のあるフラゴナールの作風は、このような慎重なタッチの積み重ねによって実現されるのですね。
ジャン=オノレ・フラゴナールの『かんぬき』は、鑑賞者がどきどきしてしまうようなシーンをとらえており、今回の展示のテーマ「愛を描く」にぴったりです。しかし、この男女2人の背後に隠されているストーリーは「恋人関係」と「一方的な要求」 のどちらにも解釈できます。
ルーヴル美術館展でジャン=オノレ・フラゴナールの『かんぬき』を観る際は、どちらの解釈がより説得力があるか検討してみてください。
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展覧会情報
「ルーヴル美術館展 愛を描く」国立新美術館
会期:2023年3月1日(水)-6月12日(月)
休館日:毎週火曜(ただし3/21(火・祝)・5/2(火)は開館)、3/22(水)
開館時間:10:00-18:00
※毎週金・土曜日は20:00まで
※入場は閉館の30分前まで
画像ギャラリー
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イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
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